最先端・次世代研究開発支援プログラム- シリコンインクを用いた低コスト量子ドット太陽電池の開発

Funding Program for Next Generation World-Leading Researchers

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プロジェクトの概要

○大気圧プラズマを基盤とする新しい環境・エネルギー研究

 大気圧プラズマの最大の特徴は,高圧気体,超臨界流体,液体,粉体,生体など,プラズマを形成する媒体を選ばない高いフレキシビリティーにあります。その結果,省エネルギー,量産性,低コストに対応した新規なプラズマプロセシングを構築し,これまで不可能と考えられてきた環境・エネルギー分野にプラズマの応用を拡大し,ブレークスルーを生み出すことができます。また,大気圧プラズマを用いることで溶液化学との融合が可能になり,プラズマメディスンと呼ばれる癌治療など高度医療への応用も急速に展開しています。
 大気圧プラズマがカバーする学術・技術基盤は,国家戦略の柱としての2大イノベーション,すなわちグリーン・イノベーションとライフ・イノベーションのいずれにも本質的にかかわっています。研究代表者は,大気圧プラズマを用いた材料開発研究に関して長い経験と実績を有しており,これまでに,シリコン量子ドットやカーボンナノチューブの合成,さらに非平衡化学反応に立脚した環境調和型反応プロセスの開発(水素・メタノール合成)に従事してきました。
 大気圧プラズマを基盤として高度に発展・深化した専門知識を融合・再構築し,環境・エネルギー分野に新しい学術分野を開拓します。

○研究の概要

 比較的高い圧力で形成される反応性プラズマを使って,可視発光するシリコンナノ粒子を低コストで大量合成するプロセスを開発しました。一般に,ナノ粒子は溶液中で合成されますが(コロイド成長),シリコンに関してはプラズマ法(気相成長)が適しています。さらに,シリコン量子ドットを溶媒に分散させた”シリコンインク”を開発し,高効率量子ドット太陽電池を低コストで製造するための研究を行います。これまでの技術の主流であった”高真空ドライプロセス”に依存しないのが特徴で,従来の技術では対応できない革新的な量産性・低コスト化を実現しつつ,量子サイズ効果を利用して太陽電池の高効率化を達成できます。シリコンの光学特性はカドミウムや鉛系の量子ドットと比べて必ずしも理想的ではありませんが,①環境負荷が小さい(無害),②資源が豊富,③既存のシリコンテクノロジーと相性が良い,など数多くのメリットがあり,次世代太陽電池の開発を支えるキー・マテリアルとして大きな期待が寄せられています。

    

インフライトプラズマCVDと,シリコンインクから作製したシリコン量子ドット(10 nm)のモノレイヤー;
SPM-9600(島津製作所)

○発展性

  1. 低コスト・高効率太陽電池の早期実現により,CO2排出量抑制,化石燃料消費量低減などグリーンイノベーションに直接貢献する。
  2. シリコンインクを用いることで,高真空ドライプロセスに頼らない材料開発,デバイス開発が可能になる。さらに,既存の印刷技術を活用して,超軽量・薄型の半導体デバイスや自由に曲げることができるディスプレーを低コストで大量生産できる。
  3. 量子サイズ効果を活かし,従来技術では対応できない新しい機能(付加価値)を持つ,シリコンをベースとしたエレクトロニクス製品を実現できる。
  4. 豊富で安価なシリコン資源である四塩化ケイ素(SCl4)を用いた新しいシリコン・ケミストリーの提案。
  5. シリコン量子ドットは赤外域で発光するため,例えば人体を侵襲しないで癌細胞を可視化して治療するなど,高度医療応用を実現できる。

○シリコン,炭素,そしてプラズマ材料科学

 米国物理学会と材料学会が2011年2月に”Energy Critical Elements”に関する報告書を発表しました。Energy Critical Elementsとは,(米国における)グリーンエネルギーに関連した技術開発に必要な鉱物資源のことで,プラチナなどの希少金属元素,ネオジウムといった希土類元素に加え,太陽電池開発に不可欠な元素としてTe, Se, Ga, Ge, Inなどが指定されています。一方,半導体や太陽電池の基幹材料であるシリコンと炭素は含まれていません。これは,シリコンと炭素が地殻を構成する主要元素であり,特定の国・地域に偏在しておらず,比較的安価に入手できるためと考えられます。
 プラズマプロセスはシリコン,炭素系材料と相性が良く,半導体微細加工やカーボンナノチューブ,ダイヤモンド,グラフェン合成など最先端科学技術を支える基盤技術として広く利用されています。プラズマの中の電子エネルギーの大きさが(1-10 eV),C-C,C-H,Si-Si,Si-H,Si-Oなどの化学結合を解離するために必要なエネルギーとほぼ等しいことが理由の一つと考えられます。また,酸化・還元・不活性雰囲気で化学反応を制御できるため,熱化学的手法では実現できないプラズマ独自の材料開発が可能になります。シリコン,炭素を基幹元素として,プラズマは「グル―ンイノベーション」を実現するために不可欠な基盤技術として大きな期待が寄せられています。

 

 参考)Energy Critical Elements, MRS Bulletin 2012(赤色で囲った炭素とシリコンは著者が加筆)

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